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活動の紹介 だいかい文庫(兵庫・豊岡)

更新日:2021年2月7日


メンバーの田辺です。


お医者さんと聞いて最初に思い浮かべるのは何科でしょうか。部活で怪我をしたら整形外科、子育て中なら産婦人科や小児科、内科や歯科、皮膚科も身近かもしれません。

では、総合診療科はどうでしょう。


先日、兵庫県豊岡市で、守本陽一さんにお会いしてきました。守本さんは豊岡で総合診療医として勤務する一方、屋台を引っ張って町なかに出かけていき、コーヒーをふるまうという活動もしてきた方です。さらに、来月には「だいかい文庫」という図書館をオープンしようとしています。


医療、屋台、コーヒー、本…

これらがどんな風につながっているのか聞きたくて、くすのき荘の仲間に紹介してもらったのでした。


この記事では、実際にお会いしてご本人からうかがった話と、守本さんが現在展開しているクラウドファウンディングのページに書いてある経緯とを、田辺の視点からまとめなおし、報告します。


12月5日にオープン予定の「だいかい文庫」





診察室から出る、白衣を脱ぐ


まず、守本さんが勤務する総合診療科は、専門分化しすぎた病院制度を見直すなかで、注目を集めています。病院は、具合が悪くなった時だけ足を運ぶ場所というイメージがありますが、総合診療が注目するのは、病院に来なければいけないほど具合が悪くなってしまう、その前の段階です。生活の習慣や環境、家族や近隣との関係など、患者さんの身体にとどまらない範囲も含めて、多角的な視点でまるっと捉えるスキルを持っているのが総合診療医なのです。


総合診療医は、イギリスなどではGeneral Practionerと呼ばれ、制度として確立されているようです。まず最初に相談するところ(プライマリ・ケア)、そして気軽に、しかも継続してやりとりできる医療者として定義されています。詳しくは、日本プライマリ・ケア連合学会のホームページや、WHOの説明をチェックしてみてください。




医療との遭遇を演出する


屋台で町なかに繰り出し、コーヒーを提供し始めたのは、守本さんがまだ医学生だったときのことで、現在までかれこれ4年ほど続けています。街かどにちょっとした広場を作り出し、コーヒーを飲みながらの何気ない会話を通して、生活環境や健康状態を自然と共有するというわけです。


白衣をコーヒーに代えることで、医者と患者という関係とは違うコミュニケーションを取れるし、わざわざ病院に来ないような人々にも出会うことができます。「コーヒー屋さんだと思っていたら、本職はお医者さんだった」という出会いかたを演出できれば、医者や病院の存在をもっと身近で敷居の低いものにすることができそうです。医療との遭遇、それが総合診療医として屋台をやってきた守本さんの狙いだと言えます。





おまけで付いてくるお医者さん


では、なぜコーヒーの屋台が図書館に展開するのでしょう。本の貸し借りに、どんな期待があるのでしょうか。


まず、本には話題提供の役割があります。おしゃべりが苦手でも、好きな本があれば、その本の内容を紹介しあうことができます。屋台にも本を置いて、コミュニケーションの媒介物にしてきたそうです。また、本を貸し借りできる常設された場所があることも重要です。屋台で常連さんとのつながりが生まれ、それを固定の場所でもっと広げたいと思うようになったそうです。


近すぎず遠すぎない距離感の顔見知りが増えていって、その輪がゆるやかに大きくなっていくイメージ、これを守本さんは銭湯に喩えていました。いつもの時間にお風呂に行くと、いつもの人がいる。そこでしか会わないけど、近況を共有する。そんな関係性のなかに、何気なく体調不良を相談できる相手として守本さんがいる。コーヒーを飲んだり、本の貸し借りをすることをメインとしつつ、ついでに「診て」もらえる。お医者さんとのおしゃべりというおまけつきの図書館なら、病院よりもぐんと敷居が低く感じられそうです。



コーヒーを淹れてくれている守本さん(左)と、彫刻家の美藤圭さん(右) すぐ近くのアトリエで作業中だったところを守本さんが覗き、

だいかい文庫でおしゃべりしてくれました



コミュニティの「湯加減」をみる


守本さんが用いた銭湯の比喩は、その場所に付随するコミュニティについて当てはまるだけでなく、お湯に浸かってポカポカするというところにも当てはまりそうです。読書や対話といった言葉の営みも、お湯のように体と心をじわじわと温めてほぐします。診察室では、不調を説明するという目的があって、それ以外の話をする余裕を持つことはあまりありませんが、「だいかい文庫」では、心に浮かんだことを言葉にして共有する時間が持てそうです。


守本さんは、患者さんの身体を診断することから、コミュニティの「湯加減をみる」ことへと、専門性の幅を広げようとしているのかもしれません。その試みは、異なる分野に携わるわたしにも当てはまることです。オープン前の「だいかい文庫」でいただいた美味しいコーヒーを思い出しながら、上池袋に帰ってきたのでした。





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